定例研究会レポート

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会員研究会
Z世代の身体観・乳房観
2022年11月12日(土)

<会員研究会>
コーディネーター:米澤 泉先生
(甲南女子大学 人間科学部 文化社会学科 教授)

1)学生発表:
「Z世代のジェンダーフリー身体観」
「TikTokは欲望喚起装置」
「Z世代の下着選びとSNS」
      甲南女子大学人間科学部文化社会学科の学生によるチーム発表

2)講演:
「ヴァーチャル空間に投影した身体の機能性」
      久保 友香
先生(メディア環境学者)

3)パネルディスカッション

 リアルとヴァーチャルが共存する時代の身体・乳房について、デジタルネイティブであるZ世代の学生達、日本の視覚文化の工学的な分析、シンデレラテクノロジー研究に従事されている久保友香先生とともに考える研究会を開催しました。 まず、甲南女子大学人間科学部文化社会学科の学生の方々から3つの発表がありました。最初のグループの発表は「Z世代のジェンダーフリーの身体観」。Z世代の身体観は、他人と比較し、周囲の目も気にしつつ、自分らしさという個性も重視するという多面性があり、女らしさ男らしさという枠組みにとらわれず、「自分受け」を追求し楽しんでいるとのことでした。そういった思想から男性用、女性用がないジェンダーニュートラルな下着や誰がはいてもフィットし、デザインだけでなく体型もシームレスなパンツなどが注目されているとのことでした。会場、オンラインから「自分受け」 と「他人受け」について、インナーをSNSで発信すること、下着の好みについての質問がありました。
 2つめのグループの発表は「TikTokは欲望喚起装置」。Z世代の乳房観についてブラジャーや胸に対する意識のアンケート調査結果を説明いただき、ブラジャー購入時に重視しているのは価格ではなく、デザインや着け心地であり、女性らしいデザインを好む人と女性らしさのないシンプルなデザインを好む人の両方がいること、約40%の人が自分に合ったブラジャーのサイズを知らないこと、ショップでサイズを測ることが「めんどくさい」「はずかしい」と感じている人が多いこと、それを解決する素敵な機械(3Dスキャナー)がワコールにはあるが、それを知っている人は20%程度で少ないことを紹介いただきました。さらに、TikTokはZ世代の購買欲求を喚起させてくれる最適な装置なので、TikTokを利用して3Dスキャナーの発信をすることを提案くださり、TikTokがどういうものかを甲南女子大学の紹介事例でみせていただきました。会場からは、アンケート調査の結果についての確認や下着購入時にブランドを重視するかどうか、3DスキャナーをTikTokで発信する時に魅力的に思える利用目的などについて質問がありました。
  最後のグループの発表は「Z世代の下着選びとSNS」。2つめのグループと同様にZ世代50人に乳房観に関するアンケートを実施され、その紹介と下着についてワコールとピーチ・ジョンを比較したアンケート結果の説明をしていただきました。ピーチ・ジョンに比べてワコールは知名度が高いが実際に持っている人は少ないこと、ワコールのイメージは、マダム世代が使っている、学生は手が出しにくい価格という一方で「圧倒的機能性」というイメージがあること、Z世代が下着に求めることは価格よりもデザイン、快適さであり、Z世代が求める快適さは、締めつけ感がなく、ずっと着けていても苦しくないことであり、下着選びに機能性が求められていることがわかったとのことでした。したがって機能性をワコールの強みとしてアピールするとZ世代にもっと興味を持ってもらえるのではないか、そのためにはユーチューバーやインフルエンサーに下着を提供し、SNSを活用することの提案をいただきました。会場やオンラインからMBTI診断や骨格診断について、テレビCMとSNS広告の違いについて、インフルエンサーとの共同商品開発による信頼感のアップについてなどの質問がありました。
 次に「ヴァーチャル空間に投影した身体の機能性」というテーマでメディア環境学者の久保友香先生に講演いただきました。2019年末に新型コロナが流行し、リアルな外見とオンラインでディスプレイに写っているヴァーチャルな外見の両方を操る時代になり、今後、どのような未来になるかを考えるために、どういう環境でここまで来たのかということをお話いただきました。先生は「顔」に注目して、日本には写実的でないデフォルメした表現が多く、その画像処理技術について興味があり研究をされていること、江戸時代の美人画の「盛り」の研究から現代の若い女の子たちの「盛り」の研究について、オンライン会議などのヴァーチャルな外見を使ったコミュニケーションの進化について、プリクラの歴史などをお話いただき、その時代のメディア技術が、人がどのようなヴァーチャルな外見を作りたいかに影響していること、メディア技術の環境が変われば、作りたいヴァーチャルな外見も変わることが、この先も続いていくのではないかということを紹介されました。さらに、若い女の子たちが「なぜ盛るのか」について「自分らしくあるために盛る」こと、その「自分らしさ」とはナチュラルな自分が生まれ持った「自分らしさ」ではなく、「作り出す自分らしさ」であること、一見、みんなそっくりに見えるが、同じに見える集団の中で個性を出していること、その理由は「真似されたい」であることを説明いただきました。重要なのは集団を作るということで、どこかの集団にまず入りたいということがあって、その集団は、集団外の人から見ると皆同じに見えるが、その中で、ちょっと差異を作って、自分らしさを出し、真似されたい、その影響を受ける人がいたら嬉しい、新たなスタイルを持った集団ができたらいいと思い、コピーと変容を繰り返し、集団が進化していく。今のメディアはそれを支援する状態であるということをお話いただきました。
 パネルディスカションでは、顔を出すことの抵抗感やアバターについて、画像処理で顔や身体を加工することの国や文化差について、下着選びの母親の影響について、コルセットやガードルなどの補整下着でからだを「盛る」文化のZ世代の浸透についてなどが議論されました。Z世代の方々の発表や下着メーカーの社員からの積極的な質問などがあり、従来にない新鮮で活発な研究会でした。

 

(事務局長 岸本泰蔵)

 

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