強い心を育む非認知能力とは?”自分の人生を自分で切り開いていく子どもの育て方

失敗しても自力で立ち上がり、逆境にも負けない――。
親はいつでも、そんな子どもに育ってほしいと願っています。
だって、そんなふうに“生きる力”の強い子なら、どんな環境でもイキイキと自分らしく、毎日を過ごしていけそうだから。

とはいえ、子どもの“生きる力”って、どう育めばいいのでしょうか。
全米最優秀女子高生の母であり、ライフコーチとして活躍するボーク重子さんは「生きる力とは、自分で自分の人生を切り開いていく力。

それを育む教育のキーワードは“非認知能力”です」と話します。
ボーク重子さんに、非認知能力と、その育み方についてうかがいました。

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非認知能力とは
数値化できない人間力
しなやかな心があれば学力も伸びる

娘のスカイさんが優勝された「全米最優秀女子高生」とは、どういった力を競うコンクールなのでしょう。

全米の女子高校生が知性やリーダーシップ、自己表現力等を競う大学奨学金コンクールです。
娘はそのコンクールで優勝しましたが、60年以上の歴史をもつコンクールにおいてアジア系の優勝が珍しく、さらに日本人では初めての優勝者となったことで、私が実践してきた「生きる力=非認知能力」を伸ばす子育て法が注目されることになりました。

私が子育てで唯一気を付けていたのは、娘の「生きる力」をまっすぐに伸ばすということ。自分で自分の人生を切り開き、自分らしく、伸び伸びと生きていく力がつくことを何よりも願ってサポートしてきました。

非認知能力とは、具体的にどのような能力なのでしょうか。

テストの点数や偏差値、IQといった数値化できる能力=認知能力とは真逆の、自己肯定感や自制心、社会性、好奇心、想像力、共感力、主体性、回復力、問題解決能力、やり抜く力といった数値化できない能力のことです。平たく言い換えると、生きる力、人間力ともいえます。
非認知能力が高くなると、たとえばやりたくないことがあっても、自分が何をするべきかを論理的に考え、自主的に行動するようになります。たとえば勉強も、必要だと感じれば自主的に行いますから、自然と学力がついてくる。

OECD(経済協力開発機構)などの調査でも、心を育む教育をしたら学力も上がったという結果が報告されています。一方で、学力を高めたら非認知能力も上がったという報告は今のところありません。 また、テストの点数が悪かったなどの挫折を経験しても、落ち込むのではなく、次はがんばろうと結果を前向きにとらえられるようにもなるのも大きなポイント。人生にはさまざまな困難があるものですが、その都度、想像力や理論的思考、問題解決能力などを使って柔軟に解決していけるようになるのです。

ボークさんが非認知能力に目を向けられたきっかけは何だったのでしょう。

実は、私はもともと自己肯定感がとても低く、自分にまったく自信を持てない人間でした。だから娘が生まれたとき、「自分のような大人になってほしくない」「この子には、どんなときも自分自身で人生を切り開いていける心の強い人間に育ってほしい」と心の底から思いました。

そこで、いろんな教育について調べていたら、非認知能力を育む教育プログラムを実施している初等学校に出会ったのです。
その学校では、「心」の強い子を育てるという方針のもと、自分で考える力を引き出すことにフォーカスしていました。小学校3年生までは教科書も宿題も一切なし。先生から一方的に授業を教わるのではなく、代わりに、先生のお手本を見て自分たちで考え、話し合うことでより良い方法や答えを発見していく教育でした。自分たちが守るルールについても子どもたちで話し合って決めるのですが、4歳の子どもでもしっかりと自分の意見を発表していたことには驚きました。

教科書もないというのは驚きです。そうした教育に踏み込むことに迷いはなかったのですか。

迷いはありました。私が経験してきた知識詰込み型の教育とはまったく違っていましたから。でも、系列の高校を見学すると、のんびりとした雰囲気の中で生徒は皆笑顔で過ごしていて、学業面ではアメリカトップクラス。おまけに、スポーツも社会貢献活動も盛んなのです。
何よりも、私と同じような教育を受けさせて、私と同じような自己肯定感の低い大人になってしまうことが怖かったので、この教育に賭けてみようと思いました。

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非認知能力
家庭でこそぐんぐん育つ
思春期からでも高めていける

そうした教育を導入している学校に入らないと、非認知能力を育むのは難しいのでしょうか。

そんなことはありません。なぜなら家庭の影響は、学校とは比べ物にならないくらい大きいからです。子どもにとって必要なのは、「愛されている」「必要とされている」と実感できる安全な場所。そんな環境でこそ自己肯定感が育まれ、失敗を恐れずに何にでも挑戦できる勇気が持てます。

年齢が低いころから取り組まないと効果は期待できませんか?

自己肯定感を含む非認知能力は何歳からでも伸ばすことができます。ネガティブな思考の癖がついていない0歳~10歳であればスピード感をもって心が育まれていきますが、思春期からでも決して遅くはありません。その子ができることを思い出させてあげたり、自信をつけさせる作業からはじめる必要はありますが、時間の問題で非認知能力は育っていきます。私自身も30歳を過ぎてから非認知能力を伸ばしていきましたから。

親自身も非認知能力を伸ばす必要があるのですか。

子どもは親をお手本にして育ちますから、親自身が非認知能力を高めることはとても重要です。実際に、私のコーチングを受けたご家族も「親が変わると、子どもも変わった」とおっしゃる方がとても多い。子どもって、本当に親をよく見ていますから、親の表情や接し方が変われば敏感にそれを察して適応していくんです。

親の非認知能力を高めるには、何から始めればよいのでしょうか。

まずは自分が夢中になれること、「パッション」を見つけてください。好きなことをしているときは自然と笑顔になりますよね?そんなときの自分は嫌いようがないので、自己肯定感がおのずと上がります。
また、好きだからこそ、失敗しても「どうやったらうまくいくかな?」と前向きに考えられる。これは回復力や柔軟性、やり抜く力などを高めてくれます。

マンガでも映画でもスポーツでもいい。心から楽しいと思えるものを見つけられたら、表情が喜びと幸せに満ちてきますし、そんな親の変化に子どもは必ず気づきます。好きなことが見つからない場合は、どうか根気強く、見つかるまで探してほしい。「おもしろそう」と思ったことにどんどん挑戦していけば、必ず見つけられますよ。

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親は完璧じゃなくていい
「子どもが話やすい親」
になろうになろう

子どもの非認知能力を育むには、家庭での接し方が重要とのことですが、具体的にどんなことに気をつければよいのでしょうか。

ポイントを1つあげるとすれば「対話」に尽きます。ただ、その対話をしやすくするためにも、まず心がけてほしいのは「完璧な親を目指さない」こと。親だって人間ですから、失敗することもあれば悩むこともある。それを子どもに開示して、共有するのです。すると子どもは「ママでも失敗することがあるんだ」「だったら私も失敗してもいいんだ」と安心し、いろんなことを相談しやすくなります。

また、子どもにとっては、大人から相談されるというのはすごいことなのです。そのうえで、自分の意見を聞き入れてくれたりすると、自己肯定感もぐっと上がります。私も娘が小さいころから、仕事の悩みや人間関係での失敗を話し、相談もたくさんしてきました。

子どもが話をしやすい親になるのですね。

そうです!そういう意味では、かっこ悪いところを見せられる親って、実は最高の親だと私は思っています。

そして、次に意識してほしいのが、「聞く力」と「話す力」。親がどういう聞き手、話し手になるかで、子どもの自己肯定感や思考力、論理的思考、表現力の育ち方が変わってきます。ポイントは「子どもを決して否定しない」こと。自分の考えと全然違うことを言ったときは「なるほどね」といったん受け入れてから、「なんでそう思うの?」と興味を示してあげてください。すると子どもは、考えながら自分で答えを見つけていきます。「それは違うよ」と否定すると、心を閉ざして考えることもやめてしまう。心配しなくても、論理的におかしなことであれば、話しているうちにちゃんと自分で「おかしいな」と気づいていきますから。

対話の時間を意識的に作ることも重要ですか?

とても重要です。親子で対話する時間を毎日必ず作ってほしいですね。対話には「あなたには頼れる場所があるよ」と子どもに感じてもらう役割もあるので、その時間が習慣になるまで継続することが大事。とはいえ、無理をすると継続が難しくなるので、それこそ1日5分でもかまいません。短くてもいいから濃い時間を作ることを意識して、朝なり夜なり家庭の状況に合わせて、対話の習慣を作ってほしいと思います。

家族そろって対話をしたほうがいいのでしょうか。

家族がそろう場合はそれがベターですが、ママと子ども、パパと子どもといった1対1でも何も問題ありません。大切なのは、愛情を伝えること。それによって子どもの心に安心感が生まれます。兄弟がいる場合も同じで、子どもたちがそろって親と対話ができればそれもいいですし、子ども1人ひとりと1対1でもいい。子どもには、親をひとり占めしたい気持ちがありますから、「ひとりっこ時間」をつくってあげるのもすごくいいことです。

時間を作る、となると気構えてしまうかもしれませんが、隙間時間や習い事の送り迎えの間など、無理なく習慣化できる時間は探せば意外に見つかるものです。以下の今日からできる!親子の信頼関係が深まる「親子コミュニケーションワークシート」に、親子時間の作り方や対話のポイントをまとめましたので、ぜひ活用してみてください。

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思春期は挨拶だけでも大丈夫!
「見ているよ」という
愛情は伝わる

思春期になると、子どもが親を遠ざけることもあります。
時間を作っても話をしてくれないときはどうすればいいのでしょう。

何を言っても「うるさい」って言われたりね。わかります(笑)。そんなときは、「おはよう」「おかえり」「おやすみ」といった挨拶だけでもいいのです。無視されるかもしれませんが「私はここにいるよ。何かあったらいつでも頼ってきてね」という愛は、それだけでも伝えられます。子どもの好きなおやつや食事を用意するなど、言葉以外で愛を伝えるコミュニケーションも意識されるといいでしょう。

子どもの言葉や態度についカッとなって、ひどいことを言ってしまったときはどうすればいいのでしょう。

そのときは素直に謝りましょう。大人はつい、言い訳をしたり取り繕ったりしがちですが、それをしてしまうと子どもは親への信頼感が薄れてしまう。だからちゃんと「私が悪かったよね」と謝る姿を見せるのです。いけないことをしたら謝る、その姿を親自身がきちんと見せれば、そこから子どもは学びを得ていきます。

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「女の子だから」
押し付けない

防犯の「なぜ?」しっかりと伝えるしっかりと伝える

「女の子」を育てるうえで注意されたことはありますか?

「女の子だから」と言わないようにしていました。

「女の子だからこうするべき」というステレオタイプを押し付けられると、人はその固定概念に自分を当てはめようとしますから、本来の能力を発揮する機会を失いかねません。さらに、「女性は男性のいうことを聞くべき」といった潜在意識が育ってしまうと、セクハラやDV、望まない性行為など「NO」と言うべきときに言えなくなる可能性だってある。「女」というだけで生き方を限定してしまうのは、とてももったいないこと。とはいえ社会は容赦なく「女の子だから」というステレオタイプを押し付けてきます。ですから家庭では、その声かけだけはしないようにしていました。

しかし、女の子だからこそ高めたい防犯意識もあると思います。そのあたりはどのように教えていたのですか?

社会には「女の子だから」というステレオタイプがあること、その中で自分の身を守るにはどんな注意が必要かを伝えていました。
具体的には、世の中にはいろんな人がいて、女の子は弱く見られがちだということ。そして、小さいからとどこかに連れ込もうとする人もいる、といったことを話したうえで、「だから、こういうことには気をつけて」と教えるイメージです。
娘には、「表通り以外は一人で歩かない」とか「怪しい車には近づかない」などのルールを作っていましたが、なぜそうしたほうがいいのか理由をちゃんと話すことで、娘自身がその必要性を理解して、進んでルールを守ることができました。たとえば防犯ブザーを持たせるときにも「ママはあなたを守りたいけれど、ずっと一緒にいられるわけじゃないから」と理由をちゃんと説明して手渡しましたね。

自分で自分の身を守る大切さをしっかりと伝えながら、「女の子だから」と可能性にフタをしない。
これが女の子の「自分で自分の人生を切り開いていく力」を育むのですね。

今の子どもたちは、女性の活躍をはじめ、グローバル化、多様化、AI化…と、激動の時代を生き抜いていけなければいけません。そんな変化し続ける時代をしなやかに歩んでいくためには、自分で自分の道を切り開いていく力は不可欠。ぜひ親子で非認知能力を育んで、人生の可能性、選択肢を広げていってください!

Bork Shigeko ボーク重子

Shigeko Bork BYBS Coaching LLC代表、ICF認定ライフコーチ。福島県出身、米・ワシントンDC在住。
アメリカ人の夫と出会い、1998年渡米、出産。
2004年にアジア現代アートギャラリーをオープン。2006年、ワシントニアン誌上でオバマ前大統領と共に「ワシントンの美しい25人」のひとりとして紹介される。
2017年、娘のスカイが「全米最優秀女子高生」コンテストで優勝。
現在は全米・日本各地で子育て・キャリア構築・ワークライフバランスについて講演会やワークショップを展開中。
最新著書『子育て後に「何もない私」にならない30のルール(文藝春秋)』発売中。

「自分で自分の人生を切り開いていける子ども」に育ってほしいと願わない親はいません。さらに、いまの子どもたちを待ち受けているのは、親の私たちでさえ正解を知らない未来。そんな時代をしなやかに生き抜いていくには、心の強さが不可欠です。自分を信じて挑戦していける心を育むためにも、まずは子どもが「ありのままの自分でいいんだ」と思える環境を作り、一緒に成長していくつもりで親子の対話を楽しみましょう。
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